やぎさわClean活動(2023年12月12日)

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なぜ「そうじ」をすると人生が変わるのか? 第8話

〜第7話へ戻る〜

 梢(こずえ)には、少し早く里に下りてきたアキアカネが止まっていた。

 老人の宿題はなかなか解けなかった。「大切なもの」を、すでに圭介が手に入れているはずだと言う。

 たしかにそうじをすると精神的には清々しいし、気持ちいい。キレイになった職場、キレイになった歩道を見るのは楽しいものだ。しかし、当初、圭介が社長や老人に挑発されてそうじを始めた目的は、達成されていなかった。

「そうじをすると売上が上がるのか? お金が手に入るのか? 得をするのか?」

 実を言うと、別にそんなことはどうでもよくなっていた。そうじをするのが気持ちよくなってしまった今、得とか損とか関係なく、そうじをやめようとは、まったく思わなくなってしまっていたのだ…。

 さて、それからさらに2ヵ月が経ったある日の午後のことだった。

 正平がガスコンロの取り付け工事から戻ってくるなり、こんな話をした。
「リーダー。やりましたよ。一軒まるごとリフォームを取れそうですよ」
「お、そうか。えらいぞ。この2ヵ月くらい目標に届かなかったからなぁ。助かるよ。で、どんな案件だ」

 正平は、ちょっと自慢げに話し始めた。

「三丁目の山口さんちのコンロが火がつきにくいって電話があったんでね、すぐに飛んで行って直してあげたんですよ。そのコンロ自体はすぐに直ったんですけどね。流し台の中が、汚れた食器でいっぱいなんです。山口さんちのオバサンはキレイ好きなのに変だなって思ったんですよ。そいで聞いたらね、最近、ギックリ腰をやっちゃって、前かがみになるのが痛くって、洗い物ができなくなってしまったって言うんですよ。それで、最近、そうじをしていると気持ちがいいのがしみついていたので、そのまま見過ごすこともできなくって、オレが全部洗ってあげたんですよ…」

「えらいじゃないの」

「そうでしょ。オレってそういうヤツなんです。へへへ。まぁ、続きがあるから聞いてください。それでね、皿洗いをしていて気づいたんです。流し台そのものが低すぎるんです。たしかに、腰を痛めた人には使いづらい。コレうちで使いやすく高さ調整して直してあげましょうかって。そしたら喜んでくれてねぇ。あのオバサンもういい歳でしょ。58とか言ったかな。たしか旦那さんも同い年とか。そろそろ、あちこち体にガタがくる頃なんですよ。それで、ふと思ってね。家の中を全部見せてもらったんです。するとね、どう考えても歳を取った人には住みにくい家なんだな、これが。水道の蛇口は旧式で硬くて閉めにくい。風呂はすきま風が入ってきて寒そう。トイレなんて、いまだにシャワー付きじゃないんですよ…」

「ほほう」

 圭介は、夢中で喋る正平の話に耳を傾けた。

「それでね、一つひとつ、将来、介護が必要になった時のことも含めてカラダに優しいリフォームを提案したんです。そしたらね、もうすぐ旦那も定年だし、老後のことを相談してた矢先だったってね。今度、ご主人のいる時に、詳しい話を聞かせて欲しいって…」

 圭介は、この話を聞いていて、心が躍るのを抑えきれなかった。「新しい注文が取れそうだ」ということではない。

 正平は、何度、営業を教えても「セールスができない男」だった。ガスショップという業態は「リフォームを獲得するには大いに有利な業態」だといわれている。

「飛び込み営業」や「紹介のセールス」をする必要がない。ガス器具をお買い上げいただいたお客様に、「設置のため」におじゃまする。その際、お客様に、床暖房や浴室暖房の話題をさりげなくする。

 子どもがいる家では、「受験のために勉強部屋の増築はいかがですか?」と提案する。ふだんの、何気ない会話の一つひとつが「リフォーム」の仕事に自然に繋がるので、強気なセールスをする必要がないのだ。

 ところがだ。正平に、何度口酸っぱく言っても、うまくセールスができなかった。「子どもがいるから子ども部屋を」と教えたら、それしか言えない。「お客様のそれぞれの状況」を判断して、必要なものに気づくことが、なかなかできなかったのだ。

 それがどうしたことか。今日の件は、「自分から提案した」のだった。簡単なように思えるが、「相手のニーズ」を読むのは難しい。このことに方程式はない。それだけに教えるといっても、一朝一夕に「一人前」にはなれない。

 実は、そのことで圭介自身にも思い当たることがあった。

 このところ「空き巣事件」がこの地域で多発している。聞いたところによると、鍵をしっかりかけていても、窓ガラスを割って手を入れて鍵を開け、堂々と入ってしまうという手口が多い。なんとか打つ手はないかと考えていた。

 そこで、つい先日「増築工事」をしたお宅の窓ガラスに、「透明のビニールシート」を張ることを提案した。犯人が窓ガラスの一部を叩き割ろうとしても、なかなか割りにくい。割れたとしても時間がかかる。たったそれだけのことで、「防犯効果」が高いのだ。そんなことをテレビ番組で見たのを覚えていて、実践してみたのだった。

 そのお客さんは大変喜んでくれ、隣近所に喋りまくった。おかげで、ほとんどサービスで5~6軒のお宅の窓ガラスにビニールシートを張る羽目に陥ってしまったが、そのうちの、なんと2軒が「ガス器具」を買ってくれたのだ。少し遠回りではあったが、「売上」に結びついた。

 圭介は、この2つが、偶然の出来事とは思えなかった。「そうじをする習慣」の前と後で、正平だけではなく、「自分の中にも何か変化が起きている」のは、「実感」としてわかる。確実に、何かが違う。

(ひょっとして…)

 これが、老人の言っていた「ゴミを1つ拾う者は、大切な何かを1つ拾っている」ということなのか。「そうじ」をしたせいで、売上が上がったのか? ぼんやりと何かが見えてきた気がした。

〜第9話へ続く〜

ごみ拾い活動

スクロールできます

内容:ホットスナック袋

場所:東側エントランス

スクロールできます

内容:タバコ空箱

場所:エントランス前植え込み

スクロールできます

内容:タバコ空箱、ティッシュ、レシート

場所:店舗前ベンチ

スクロールできます

内容:ストロー

場所:宅配ボックス前

スクロールできます

内容:タバコ空箱

場所:店舗前植え込み

スクロールできます

内容:空き缶

場所:エントランス前植え込み

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