なぜ「そうじ」をすると人生が変わるのか? 第3話
それから1週間が経った。通勤の際に、公園をぬけるのが近道ではあったが、またあの老人に会うのがなんとなく嫌で、わざと遠回りして歩いた。
「拾った人だけがわかるんじゃよ」
というあのセリフが頭の中でグルグルと回っていた。
何度も消し去ろうとしたが、それは大きくなるばかりだった。圭介は理屈が先行するが、気になることがあると、とことん物事を調べる性分である。もう一度、あの老人に、「そんな意地悪を言わないで、ゴミを拾って得する理由を教えてくださいよ」と聞いてみたい気持ちが心の中で膨らんでいった。
その日は、穏やかな五月晴れだった。工事の予定もなく、事務所で「お得意先へのFAX DM」をつくっていた。ふと気づくと、もう1時を回っていた。近くの食堂へランチを食べに出掛けた。
田中エナジーは商店街の中にある。その何軒か並びには、幼稚園があった。「若葉幼稚園」という。黄色の鉄柵越しに、園内の広場で遊ぶ子どもたちを見ながら、通り過ぎようとしたその時だった。
足元に、「コーン!」と何かが当たった。それは「空缶」だった。気づかずに、蹴飛ばしてしまい、音をたてて数メートル先まで転がってしまった。
次の瞬間、圭介はその空缶に腰を屈めて手を伸ばしていた。手に取って、ハッとした。
(この空缶、どうしよう……)
圭介は、自分が取った行動に、自分自身で驚いていた。生まれてこの方、一度も路上の空缶など拾ったことがなかったからである。無意識にあたりをキョロキョロと見回した。誰かに見られていないかと思ったのだ。商店街である。当然のこと、人通りはある。しかし、今の圭介には、誰も気を留めていないようである。
ふと気づくと、幼稚園の窓に、若い女の先生の姿が見えた。遠くて、目線まではわからなかったが、どうも、こちらを見ているような気がした。いや、気のせいかもしれない。なのに、顔がものすごく熱くほてっていた。おそらく、真っ赤になっているに違いなかった。
「いかん、いかん」
空缶を手にして、歩道に立ち尽くしている自分に気がついた。
(すぐに、これをどこかに捨てなければ)
小走りに、5メートル先の酒屋さんまで駆けた。そして、ジュースの自動販売機の横に設置されていた「空缶入れ」に、カランとほおり込んだ。
ランチから戻ってくると、部下の草野正平(くさのしょうへい)がニヤリとして近づいてきた。
「えへへ、偶然、見ちゃいましたよリーダー。さっき道端の空缶、拾ってたでしょ」
圭介はまたまた顔が赤くなった。返事に窮して、
「え? そ、そうだったっけ?」
と答えると、
「恥ずかしがらなくたって、いいじゃないですか。カッコイイっすよね」
とそれだけ言って、正平は仕事に戻っていった。
圭介は、気になって奥を覗いた。今の会話を社長に聞かれたのではないかと気になったのだった。作業場には、誰もいなかった。
ごみ拾い活動
内容:タバコ吸い殻
場所:駐輪場横
内容:タバコ空箱
場所:店舗前ベンチ
内容:マクドナルド袋
場所:西側エントランス前
内相:パン袋
場所:南側植え込み
コメント