やぎさわClean活動(2023年12月5日)

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なぜ「そうじ」をすると人生が変わるのか? 第2話

 〜第1話へ戻る〜

 翌朝は、小雨が降っていた。

 昨日と同じように、工事中の道を迂回して公園の中に入った。すると、あの老人がまたしてもゴミを拾っていた。それも、この小雨の中、傘もささずに黙々とゴミ拾いをしているのだ。

 夕べ帰宅して、伯母に電話してみた。「公園の老人」を見たせいか、その後の具合が気になったのだった。幼い頃、ずいぶんと可愛がってくれた伯父だったが、最近はボケが進行していて、毎日一緒に暮らしている伯母は、すでに伯父の面倒をみるのに精根尽き果てていた。ほっておくと、勝手に家を出て行ってしまう。かといって、部屋に鍵をかけておくと、ドンドンと叩いて大騒ぎになる。

「私、もう疲れたわ。おとうさんを、どこかの施設にお願いしようと思うの…」
圭介はいたたまれなくなって電話を切った。

そんなこともあり、今度は公園の老人のことが気になってしまった。この小雨の中、大勢ではなく、たった1人で老人がゴミ拾いをしているというのは、どう見ても異常な光景に見えた。

 腕時計を見ると、出社時間にはまだ30分ほど余裕があった。腰を屈めて黙々とゴミ拾いをして歩いている老人の後を、10メートルほど後ろから付いていった。木立に隠れながら、気づかれぬように。圭介は迷っていた。声をかけようかどうしようかと。しかし、もし「ボケ老人」だったら、どうしたものか。会話になるのだろうか。

 そんなことを考えていて、ふっと気づくと老人が踵(きびす)を返して圭介の方に歩いてきた。急なことで、動けなくなってしまった。そして、ベンチをはさんで向き合う形になった。老人が口を開いた。

「おいキミ。何かワシに用かね?」

 そのしっかりとした口調に、圭介は驚きを隠せなかった。見てくれは70代でも、声には50歳くらいの若々しさがある。

「い、いえ…別に」
「別に、ということはないじゃろう。さっきからワシの後を付けてきて。最初は何者かと心配したが、見れば普通のサラリーマンのようじゃしな。しかし、知らぬ者にずっと後を付け回されるのは愉快ではないのう…」
「す、すみません」

 圭介は赤面した。どうやらボケ老人ではなさそうだ。となると、ますます疑問が膨らんだ。なぜ、ゴミを拾っているのか。
「あの、1つ、聞いてもいいですか」
「何じゃな、いきなり…。尾行の次は質問かな?」

 初対面で、まだ一言二言しか言葉を交わしていなかったが、老人の瞳の奥に、なにやら「優しさ」のようなものを感じとった。ちょっとうるさそうな人物ではあるが、敵をつくらないタイプの人間に見えたのだ。

「申し訳ありません。私はこの近所の会社に勤める者なんですが、昨日、通勤の途中で初めてあなたをお見受けしたんです。公園の中でゴミを拾っておられるのを…」

「おぉ、そうだったのかね。それで…」
「それで、なんというか、どうしてゴミを拾っておられるのか、理由をおうかがいしてもよろしいでしょうか? 失礼ながらお役所の清掃員ではなさそうだし、かといって地域の清掃ボランティアのようにも見受けられません…」

「なんだ、そんなことか…。ただ、拾いたいから拾っているんじゃよ」
「拾いたいですって?」
「そうじゃよ。考えてみたまえ。拾いたくなければ、拾うわけがないじゃろう」

少し雨脚が弱くなった。圭介は、質問を変えてみた。

「では、なぜ拾いたいんですか。拾うと、何かよいことがあるんですか?」
「ほう、そうきたかね。よいことがないと拾っちゃいけないのかな?」
「…そんなわけではないですが。人は、何か自分にとって得することがないと、普通は行動に移さないものでしょう。違いますか?」
「うほう、なかなかはっきり言うヤツじゃな。まぁ、確かに、キミの言うとおりかもしれんな」

 老人は、なんだか突然に現れた客人を喜ぶかのように、表情を崩して答えた。
「まぁ、最初に答えを言うのは好きではないが、答えを言ってしまうと、実は、そうじをすると、得することがあるんじゃな

「得って何ですか?」

 圭介は、急に昨日の社長との話を思い出した。「そうじをすると、売上が上がるのか」と質問したが、社長はちゃんとは答えられなかった。この老人なら、なんと答えるのだろうか。しかし、次に、圭介が思ってもみないことを言った。

「別に、拾いたくないなら、拾わんでもいいよ」
「え!?」
「聞こえんかったかな。別に拾いたくないなら、拾わんでもいいと言ったんじゃ」

 圭介はこの言葉に「カチン」ときた。「ゴミ拾いをすると、何か得することがある」と老人は言う。「その得とは何なのか?」と聞いたのだ。それなのに、「別に、拾いたくないなら、拾わんでもいいよ」と言う。こちらだって、別に、「拾いたい!」とも思わない。圭介は、軽い憤りを感じて言い返した。

「ひょっとして、何か今までの人生で悪いことをして、それの『罪滅ぼし』か何かなのですか?」
「わっははは。面白いことを言うのう。まぁ、そこまで言うのなら1つ、教えてやろう。耳を貸しなさい」

 そう言うと老人はベンチをぐるりと回って、圭介に近づいてきた。そして、立ち尽くす圭介の耳元でポツリと囁いた。

「拾った人だけがわかるんじゃよ」

 何だかバカにされた気分だった。キョトンとした圭介を尻目に、老人はまた「ゴミ拾い」を始めた。腕時計を見ると、始業時間の5分前だった。「遅刻だ!」老人に一礼をして慌てて駆け出した。

〜第3話へ続く〜

清掃活動

スクロールできます

公園に落ち葉が溜まってきました。前回の履き残しもあります。

清掃前です。

清掃前です。

清掃前です。

清掃前です。

清掃後です。12月いっぱいまで落ち葉は続きそうです。

清掃後です。

清掃後です。

清掃後です。

90リットルのゴミ袋が4袋になりました。

ごみ拾い活動

スクロールできます

内容:ホットスナック袋

場所:エントランス横植え込み

スクロールできます

内容:タバコ吸い殻、空き缶、空き瓶

場所:せせらぎ公園

スクロールできます

内容:空き缶

場所:せせらぎ公園

スクロールできます

内容:タバコ吸い殻

場所:駐輪場前

スクロールできます

内容:おにぎり袋、ホットスナック袋

場所:エントランス横植え込み

スクロールできます

内容:アメ袋、タバコ空箱

場所:店舗前ベンチ

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